お知らせ
8月1日、17時。


滋賀県長浜市のたかとき地域で開催された「たかとき夏祭り」の会場に到着すると、
まだ会場にはまばらに子どもたちの姿が見える程度でした。
会場は、材木工場の敷地に面した一角広さはテニスコート2面ほどでしょうか決して大きな祭りではありません。
しかし、夏の夕暮れが近づくにつれて、少しずつ人の姿が増えていきます。
この地域で活動する「エネシフ湖北」の主要メンバーである清水さんと久木さんに話を聞きながら、
焼きそばを頬張っているうちに、あたりも次第に暗くなってきました。
そして18時頃。
ふと会場を見渡すと、先ほどまでのまばらな光景が嘘のように、子どもたちや家族連れで埋まっています。
地域外から訪れたと思われる子どもたちの姿も少なくありません。
「どうして、こんなに人が集まるようになったのですか?」
そう尋ねると、久木さんは、この夏祭りが始まったきっかけについて話してくれました。
その物語は、祭りではなく、一つの森から始まっていました。


「大変な作業」を「楽しいこと」に変える
きっかけとなったのは、地域を襲った台風でした。
会場の裏手にある森では、強風によって多くの木が倒れました。
そのままにしておけば、森は荒れ、やがて鬱蒼とした場所になってしまう。
けれども、倒木を片付け、森を整備するには大きな労力が必要です。
地域の草刈りや清掃と同じように、「やらなければならない大変な仕事」としてしまえば、継続することは難しい。
そこで久木さんが考えたのが、「楽しいことを入口にして、森を整備する」という方法でした。
子どもたちも参加できるようにして、みんなでバーベキューを楽しみながら森を整備する。
「森をきれいにしましょう」と呼びかけるのではなく、「みんなで楽しく過ごしましょう」と声をかける。
そうして少しずつ森を整備し、きれいになった場所には新たな木を植えていきました。
杉だけではありません。
紅葉など、さまざまな木を植えながら、少しずつ森の姿を変えていきました。
かつて台風によって大きく姿を変えた森は、今では「たかつきの森」として、新しい物語を育てる場所になっています。
森が、人の集まる場所になっていく
久木さんがこの地域に移り住んだ頃、周辺には子どもたちの姿がほとんどなかったといいます。
ところが、森での活動を続けるうちに、少しずつ変化が生まれました。
活動を知った近隣地域の人たちが子どもを連れて参加するようになり、地域に関わる人が増えていく。やがて、移住してくる人も現れました。
森を整備することから始まった活動が、いつの間にか人と人をつなぐ場になっていたのです。
そのつながりから、また新しい活動も生まれました。
地域に暮らすオーストラリア出身の方から、海外のクリスマスマーケットの話を聞いたことをきっかけに、この地域でもクリスマスマーケットを開催するようになりました。
敷地横にある大きな木をクリスマスツリーに見立て、地域の人たちが集まるイベントにする。
「夏にも何かできたらいいね」
そんな声から始まったのが、現在の「たかとき夏祭り」です。
一つの活動から、別の活動が生まれる。
その活動を通じて人が集まり、また新しいつながりが生まれる。
こうした積み重ねが、少しずつ地域の風景を変えていました。
夏祭りの途中で、森へ向かう
この日の夏祭りでも、そんな「つながり」を感じる出来事がありました。
祭の最中、話をしている中で久木さんが、
「せっかく出し、たかときの森を見に行きましょうか?」
と声をかけてくれました。
まつりの合間に、来場者にアナウンスをすると十数人ほどの参加者が集まり、会場の奥にある森へ向かいます。


そこでは、かつての台風被害から始まり、倒木の撤去、森の整備、植樹を経て、現在の姿になるまでの経緯を久木さんが説明しました。
森に入ると、祭の会場とはまた違った時間が流れています。
そこにいた森の専門家や、この森の活動にも関わっている飲食店の方にも話を振りながら、
久木さんは参加者に、この場所と関わってきた人たちのことを紹介していきます。
木の切り株から生まれる新しい芽の話など、専門家から聞く自然の小さな変化に、参加者から驚きの声が上がります。
さっきまで夏祭りを楽しんでいた人たちが、今度は森の中で木や土を見つめています。
その風景を見てあらためて気づいたのは、祭と森は、別々の活動ではないということ。
森があったから人が集まり、人が集まったから新しい活動が生まれ、その活動がまた森や地域との関わりをつくっていく。
そんな循環が、この地域では少しずつ形になっていたのです。




「楽しい」から始まった、小さな循環
再び会場に戻ると、先ほどよりもさらに多くの人でにぎわっていました。
きそばや飲み物を手にする人、子どもたちの声、地域の人たちの会話。
最後にはこの地域で親しまれている「●●音頭」で盆踊りがはじまり、夕闇の中沢山の人が輪にになって踊っていました。
一見すると、どこにでもある夏祭りの風景です。
けれど、その背景には、森をどうするかという一つの問いから始まった活動がありました。
「大変な仕事」を「楽しいこと」に変える。
そして、その「楽しい」が人を呼び、人とのつながりを生み、地域の新しい資源になっていく。
たかとき夏祭りは、単なる地域イベントではありません。
そこには、自然をきっかけに人がつながり、そのつながりから新しい活動が生まれていく、地域の小さな循環がありました。
そして、その循環を支えているのが、エネシフ湖北という存在です。
後編では、地域にあるさまざまな想いや資源をつなぎ、それぞれの強みを生かしながら活動を育てていく、エネシフ湖北の中間支援のあり方に迫ります。