• 地域づくりのヒント

“?(問い)”を深掘りし、想いを互いに共鳴させる――プロのおせっかいが結びつける、10年20年先の地域の未来

“?(問い)”を深掘りし、想いを互いに共鳴させる――プロのおせっかいが結びつける、10年20年先の地域の未来
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※QUESTIONの館長:平野さん

QUESTION(クエスチョン)』は、京都信用金庫が運営する共創施設で、新たな価値を生み出す共創プラットフォームとして202011月年に誕生しました。ここでは『様々な人の「?」が集まり、つながる場所』をコンセプトに、一人では解決できない"?(問い)"に対して多様な人が集い、寄ってたかって答えを探しに行きます。

館長の平野哲広(ひらの あきひろ)さんは、コミュニティマネージャーとして人と人、事業と事業をつなぎ、みんなで寄ってたかって課題解決にあたっています。コミュニティマネージャーとして2年間に約2,000名と名刺交換を行い、絶え間なく相談を受けているという平野さん。そのつながりは中小企業やスタートアップ、大企業、学生、行政など属性や規模を問わず、北海道から沖縄、海外にまで及びます。この広大なネットワークを活かし、対話を重ねながら課題解決と新たな事業創出を伴走支援しています。


平野さんの活動の真骨頂は、依頼を待つのではなく「この人とこの人が出会えば面白いことが起きる」と直感した際に一歩踏み込んで結びつける【プロのおせっかい】です。相談者の想いに共感したコミュニティマネージャーが、その熱量を地域全体へと広げていく過程で、"自分も力になりたい"という相互の共鳴が生まれ、主体性の連鎖が巻き起こります。それが、金融機関の枠を超えて地域の未来を動かす根幹となっていました。


QUESTIONの外観


※イベントスペース


※物販コーナー

※服のリユースボックスも設置

“本質的な課題”を立てることで、解決への最短ルートを導く

平野さんが問いを扱う際に重視するのは、対話を通じて"本質的な課題"を掘り当てることです。「人が辞めていくという悩みも、悩みの背景を深堀し確認すると、設備の老朽化やコミュニケーション不足といった、相談者も気づいていなかった真の原因が見えてくることがある」と平野さんは指摘します。「問いを適切に定義し直すことで、解決への最短ルートとなる答えを導き出せる」とも話し、目的地を間違えたまま進まないよう将来のビジョンについて関係者同士ですり合わせることを重視しています。このプロセスを経て、関係者全員が共感し、課題を"自分ごと"として捉える共通認識が生まれます。

徹底した事業の実態把握が、“共感”を通じた深いつながりになる

平野さんが実践するビジネスマッチングの核にあるのは、数値や条件を超えた、相談者の背景にある想いやストーリーへの"共感"です。平野さんは相談者の事業内容や得意分野といった詳細を知り尽くす実態把握から始めます。その企業にしかない"らしさ"といった想いや価値が明確になることで人がつながり合い、独自の強みをもつ商品・サービスが生まれます。さらに、その背景には、思わず語りたくなる魅力的なストーリーが立ち上がっていきます。「相談者の想いやストーリーを本人以上に理解し、熱量を持って代弁することで、事業者同士の共感が生まれ、自然と深いつながりになる」と平野さんは話します。

この活動の原点は、「京都信用金庫がバブル崩壊時に得た教訓にある」と平野さんは話します。困難を乗り越えた取引先は、担当店舗が得意な加工内容や精度、販売先まで詳細に把握していた企業でした。深い実態把握が、危機の際にも適切な伴走支援を可能にし、不良債権の発生を防いで地域の企業を守り抜くことに直結していたのです。この教訓は『QUESTION』にも受け継がれ、地域の持続可能性を支える精度の高いマッチングへとつながっています。

何気ない会話のできる親睦が、新たな事業を生む基盤となる

平野さんは、仕事上の関係にとどまらず、趣味や関心事といったプライベートな側面での自己開示を通じたつながりも大切にしています。共通の興味で意気投合することで、目的がなくても会話が続くフラットな関係基盤が生まれます。実際に、車と酒という共通の趣味で親睦を深めた異業種のメンバーが、2〜3年かけて信頼を醸成し、最終的に新たな事業が生まれた事例もあるそうです。一見遠回りでも、こうした何気ない関係づくりこそが強固な協働を生む本質的なプロセスだと、平野さんは考えています。

※相談者さんと平野さん
※実施されたプロジェクトの様子

地域と共に歩む、“コミュニティマネージャー”を目指して

平野さんは、コミュニティマネージャーが地域を大切にする考えを持ち、誰が何を知り、何に情熱を持っているのかという、見えないネットワーク(緩やかなつながり)を把握し、人や事業を最適に結びつける役割を担うことが必要だと考えています。その実現に向け、QUESTIONへ異動してきた職員が「何をしたらよいか?」という迷いを払拭できるよう、組織理念やコミュニティマネージャーの役割を早期に言語化して伝えることを重視しています。活動の意義を経営理論や京都信用金庫の企業理念と結びつけ深く腹落ちさせることで、職員一人ひとりが自ら実践できる体制づくりを目指しています。

地域と運命共同体だからこそ、10年、20年先を考える

京都信用金庫の活動の根底には、"信用金庫は地域と運命を共にする存在である"という役割意識があります。信用金庫法(※1)により、営業地域や取引先(中小事業者等)が限定されているため、地域の事業者等が持続・成長しなければ、信用金庫自体も存続できません。こうした制約を"地域に深く密着できる強み"と捉え、短期的な利益ではなく10年、20年先を見据えた支援を行っています。
※1:信用金庫法:地域住民や中小企業が互いに助け合う協同組織として信用金庫を運営するための基本ルールを定めた法律。

平野さんの取組の一例として、京都のまちを一つの会社に見立て、京都信用金庫の若手職員を含めた、京都を中心とした企業の若手社員が集い、『QUESTION』のコミュニティキッチン「DAIDOKORO」でタコスを作りながら交流する企画を実施したことがあります。様々な企業の同世代がつながることで、将来その若手社員が役職に就く頃には、交流会で培った信頼関係を基盤に仕事を任せ合える関係性が生まれ、やがて地域の成長を支える力となることを狙っています。また本企画では、若手社員の定住や結婚、子育てといったライフステージの変化までを視野に入れていました。若者が地域に根を下ろし、「自分たちの子どもが育つまちをより良くしたい」と感じる過程を通じて、地域への関心が“他人ごと”ではなく“自分ごと”へと変わっていくことを、平野さんは狙っていました。

今後、全店を“課題解決型店舗”へと進化させる構想を京都信用金庫は描いています。相談業務を通じて、相談者が抱える悩みや実現させたい展望を丁寧に掘り下げ、地域に深く入り込むことで、従来の金融の枠を超えた独自のネットワークが、より細やかに、そして広範に広がっていきます。
課題解決型店舗がハブとなり、多様な主体が集うことで、課題解決のスピードは飛躍的に高まります。
コミュニティマネージャーが問いの本質を見極め、適切な人と人、事業と事業をつないでいくことによって、地域の持続可能な未来を共創する力がさらに加速することを、平野さんは期待しています。

 

※若手社員の交流イベントの様子

平野さんから中間支援を担う方へメッセージ

最後に、地域で中間支援や課題解決に携わる読者の皆さまへメッセージをいただきました。
「成果を生み出す主役は、あくまで現場で動く事業者や地域の方々です。平野さんだからできたと言われることもありますが、私はただ知っている方をつないだだけです。1人の人間には自ずと限界がありますが、多数の個人が持つ知識・経験・意見を結集し、1人では到達できない意思決定や創造的な課題解決を目指す"集合知"の力を信じています。解決の答えは私の中ではなく、ネットワークの中にこそあるのではないでしょうか。」

感想

QUESTION』の真価は、信用金庫の本来の顧客である中小事業者等の枠を超え、多様な属性が混ざり合い、事業や協働を次々と生み出している点にあります。採算ベースにとどまらない地域共創を重視したこの挑戦的な取組は、職員一人ひとりの行動変容を促し、組織全体の風土をも変革しつつあります。コミュニティマネージャーが数年単位で異動するジョブローテーション的な組織体系の中にありながらも、『QUESTION』は属性を超えた広域なネットワークを形成し、地域に寄り添う支援機能を発揮し続けています。その背景には、京都信用金庫が長年培ってきたコミュニティ・バンク(※2)としての姿勢と、それに基づく地域との向き合い方、さらには対話を通じて蓄積されてきたノウハウや情報があるからではないかと感じました。

地域の未来を大切にしながら、アグレッシブに人と人をつなぎ続ける平野さんの姿勢は、これからの地域社会における中間支援の在り方を示す、持続可能で先進的な攻めのモデルと言えるのではないでしょうか。

※2:コミュニティ・バンク:京都信用金庫は昭和40年代半ば、国内金融機関として初めて『コミュニティ・バンク論』を提唱。昭和46年には「顧客・職員・地域社会」の3つのCを掲げたコミュニティ・バンク宣言を行い、地域密着型金融の実践を続けている。創立100周年を迎えた2023年9月には、ブランドネーム「コミュニティ・バンク京信」を制定し、店舗の看板などでも使用している。

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