インフォメーション
小さな成功体験が、住民主体の鍵に!『一般社団法人みんなとふるさと』伊川さんの「やってみたい」に寄り添う地域づくり
更新日:2025年12月23日
奈良県天理市福住地区の『一般社団法人みんなとふるさと』(https://www.minnatofurusato.net/)(以下、「みんなとふるさと」という。)の代表である伊川健一さんは、行政や地域住民といった様々な主体をつなげるキーパーソンとなっています。特に注目すべき点は、伊川さん自身がお茶農家というプレイヤーであると同時に、地域をつなぐ中間支援の役割も担っていることです。
インタビューでは、伊川さんのこれまでの歩みや哲学、直面した課題、中間支援としての成功の秘訣など多岐にわたる話題について伺い、地域に寄り添う地域づくりに対する多くのヒント得ることができました。

1.活動の原点:守り続ける3つの原則
伊川さんの活動は、2001年に耕作放棄茶園を再生する『健一自然農園』の設立から始まりました。10代から環境や社会問題に関心を持ち、阪神・淡路大震災の経験を通して、<経済成長だけでなく、自然と調和し循環していく社会>の必要性を強く実感。19歳から「郷に入ったら郷に従う」「人の話をちゃんと聞く」「価値観を押し付けない」という原則を大切にし、プレイヤーとして農園事業を行う傍らで、中間支援主体として地域に寄り添い、奈良市都祁(つげ)地区での地域おこし、協力隊の伴奏支援など、様々な角度からの地域づくりにチャレンジした30代を過ごしました。
しかし、活動の幅が広がり、仲間たちの様々な想いを受け止める中で、「<プレイヤーとしての農園事業>と<中間支援としての地域づくり活動>を整理する必要がある」と感じ始めました。また当時、天理市福住地区や山添村で中間支援活動を行う団体が不足しており、行政と地域住民をつなぐ細やかなフォローが難しいという課題意識も強くなっていきました。
そこで、「地域の自然資本全体を生かすような地域づくりを継続的に支えるプラットフォームが必要だ」と考え、中間支援組織『みんなとふるさと』を新たに立ち上げました。



2.『オーガニックビレッジ宣言制度』の活用と<小さな成功体験>が育む住民の地域への愛着
みんなとふるさとの活動として、天理市による福住地区の地域づくりに対する中間支援がスタートしました。きっかけは、市から福住地区の廃校舎活用の相談を受けたことでした。調べてみると、廃校の校章にも〈お茶の花〉があしらわれるほど、お茶が地域の特産であったことがわかりました。そこで衰退しつつあった地域ブランド茶『福住茶』の再興に取り組むことにしました。
伊川さんは、地域づくりには<行政と地域住民が描くビジョンが一致していること>が重要と考え、まず「地域住民が福住茶のことを大切に思っているか」を確認することから始めました。確認に当たっては、畑で出会ったときに、自然と話し合いながら、昔話に耳を傾けて、普段は口にされない思いに触れるようにしていきました。このヒアリングを通じ、地域住民からは福住茶や地域活性化に対する前向きな声を把握しました。


行政と地域住民の想いを丁寧に確かめる中で、福住地区が抱える現実も見えてきました。中山間地域ならではの地形的制約により広い農地を確保しづらく、福住茶を再び日常の中へ根づかせていくには、事業基盤が十分とは言えない状況にあったのです。そうした課題を共有していく対話のなかで、行政と地域の双方から自然に浮かび上がってきたのが、農林水産省の『オーガニックビレッジ宣言制度※1』でした。この制度は有機農業の推進だけでなく、地域協議会の形成や、<地域の暮らしに根ざした価値>を育む取り組みも支援の対象としており、福住の未来像と親和性が高いものでした。例えば福住茶を<高付加価値な特産品>としてではなく、「自然と調和し、子どもからお年寄りまでが日々の暮らしの中で楽しめる、おだやかな地域文化として育てていきたい」という想いを行政と地域が共有したことで、制度活用の検討を後押ししていきました。これにより、福住の小さな想いの灯がひとつ、またひとつと結び合わさり、地域としてのオーガニックビレッジ宣言への模索が静かに、しかし確かな一歩として始まっていきました。
※1:オーガニックビレッジ宣言とは、有機農業の生産から消費までを一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取組を進める市町村が、その取組を地域内外に示すために行う宣言です。



活動資金を基に、伊川さんは、耕作放棄茶園の資源を活用したお茶の企画・開発などを天理市に提案しました。お茶は、茶葉だけでなく伸び放題の茶花・茶木が活かされるとともに、地元小学生の絵や、福住茶の再興や福住地区における地域づくりの物語がカラフルに印刷されており、福住地区ならではのストーリーを内包する商品となりました。『里山三年晩茶』と名付けられたこのお茶は、売上の一部が地元・福住小中学校の生物部に寄付され、地域に還元される仕組みとなっています。


そうした中、早期退職を経て「地域の未来のために、私にもできることを」と静かに想いを寄せてくださった地元の女性がいました。その小さな声が、のちに朝市という形で芽を出していく、最初のきっかけとなりました。朝市は、子どもたちにも地域の皆さんにも名前を募集しながら育まれ、やがて 『ふくふく市』という、あたたかな響きを持つ名前を授かります。
その成長を見守り、必要なときにそっと励まし、背中を少しだけ押す――そんな関わりを続けるうちに、「これはもしかしたら中間支援なのかもしれない」と、伊川さん自身が思い始めたといいます。
「もともと<中間支援>という概念を強く意識していたわけではありません。ただ、日本の集落や里山で長く受け継がれてきた、人と人が自然につながり合い、互いに手を差し伸べる <うるわしき関わり方>そのものが、実は中間支援なのだと、後になって静かに気づかされたのです。」と伊川さんはいいます。

3.天理市福住地区における『農村RMO』の挑戦
また伊川さんは、市に農水省の施策を活用した『農村RMO(地域運営組織※2)』の推進を提案しました。これは地域住民が中心のプラットフォームを形成する地域づくりのアプローチです。
※2:地域住民が中心となり、地域の課題を解決し、暮らしを守るために持続的に取り組む組織のことです。特に、農村地域で農用地の保全、地域資源の活用、生活支援などを一体的に行う組織は「農村型地域運営組織(農村RMO)」と呼ばれ、農水省が推進しています。
福住地区における農村RMOとして『福の住む里協議会(以下、「協議会」という)』が2025年5月に設立され、地域の方が事務局長を務め、伊川さんは伴走役に徹するという運営体制を取っています。福住の地域づくりでは、「農」「暮らし」「福祉」など多様な視点からなる3つの部会が活動しており、伊川さんは、「プラットフォームづくりは、どれか一つが突出するのではなく、各部会が無理なく響き合う状態を整えることが大切」と語ります。さらに、<地域住民の想いに寄り添う地域づくり>とは、制度を先に据えるのではなく、「国が発するメッセージを静かに受け取りつつ、その“半歩先”を住民の方々とともに見つめる姿勢が重要だ」と考えています。
地域の中に小さな芽が宿る瞬間――「これをやってみたい」「自分にもできるだろうか」そんな住民の内側から湧き上がる気持ちを丁寧に待ち、その芽が育ち始めたときにそっと寄り添い、背中を少し押す。伊川さんは、そのプロセスこそが地域づくりの核心だと感じています。
福住地区では、高齢の方々が楽しくおしゃべりをしながらお茶の袋詰め作業を行い、それが居場所づくりと小さな収入の確保の両輪となる、新しい循環の芽も生まれています。お金を得ることが目的ではなく、「活動を通じて自分の人生が地域とつながり、未来に希望が灯ること――その体験こそが、住民にとって最も大切な価値である」と伊川さんは考えています。


4.実践知を基盤とする『プレイヤー型中間支援』の真価
伊川さんの地域づくり活動の根幹には、プレイヤーとして事業を行いながら中間支援として助言や人と人のつながりづくりを行う『プレイヤー型中間支援』の強みがあります。伊川さんは、20年以上にわたる農園経営と地域づくり支援の経験により、地域に必要なアクションを肌感覚で把握できる実践知を身に付けていると言って過言ではありません。これにより、行政の意図や民間企業との距離感に配慮しながら、地域住民が主体となるプラットフォームを実現させています。
また、伊川さんは経験上、地域の方々が手応えを得ていくには、まずは<何かを作って、売る>というアクションが最も分かりやすく効果的だと考えています。『里山三年晩茶』だけでなく、地域特産の赤いスイートコーン『大和(やまと)ルージュ』のスープ、お米や干し芋といった地域資源や、お茶摘み体験自体の商品化もその考え方に基づくもので、これらを通じて事業創出とプラットフォーム形成が着実に進められています。
さらに、福住地区の魅力を打ち出し続けて事業の売上を維持し、利益の一部を農村RMO交付金終了後の協議会運営費に充てる計画も進んでいます。



5.これからの大和高原全体を見据えた連携のビジョン
伊川さんは、活動拠点である大和高原だけでなく、より広い地域連携を見据え、エリア全体に無理なく地域づくりの輪を広げていきたいと考えています。大和高原でオーガニックビレッジ宣言をした宇陀市・天理市・山添村を、それぞれ個性を持つ<3兄弟>のように捉え、競争を回避し相互に補完し合う関係を築くための<棲み分け>を行うことが重要だと言い、各地がそれぞれ個性や強みを活かし連携することによる価値向上を目指しています。さらには、三重県伊賀市や名張市、滋賀県甲賀市といった、同じくオーガニックビレッジ宣言をしている周辺地域と連携した広域プラットフォームも構想しています。
伊川さんは、<地域にどう受け入れられるか>を活動の根底に置いた上で、地域が持つ自然資本や人的資源を最大限に生かし、より広範で持続可能な環境・経済のシステムを築くという、壮大なビジョンを描いているのです。
6.伊川さんから中間支援の方へ
―継続の原動力としての「好きになっていくこと」・心の奥に芽生える<種>を見つける―
地域活性化の根っこにあるのは、計画や制度よりも、もっと静かで個人的な感情だと感じています。それは最初から明確な「好き」ではなく、地域で暮らす人や自然と関わるうちに、自分の奥のほうからふつふつと湧き上がってくる、あたたかい感情のようなものです。
その感情が芽生える瞬間を確かに感じてもらうためには、住民の方が「やってみたい」と思った小さな一歩が、ちゃんと形になり、誰かに届く体験が必要です。そしてその積み重ねが、人や自然、土地への思いを少しずつ育て、「この場所の未来を残したい」という内側からの意志へと変わっていきます。
私自身、プレイヤー型の中間支援として地域に関わるなかで、住民の方の心からの笑顔にふと出会う瞬間があります。その一瞬に触れると、「この道は間違っていなかった」と、静かに確信が宿るのです。本業を持ちながら長く地域と関われるのは、焦らずに変化を見守れる強みでもあります。
一方で、広域的なプラットフォームづくりは、決して一人でできるものではないとも痛感しています。地域づくりは、思い通りに進まないことの連続です。それでも歩みを続けられるのは、その土地の力を信じ、人々の声に耳を澄ましながら、少しずつ「好きになっていく」プロセスそのものが、私たち自身の希望を育ててくれるからだと思うのです。計画や効率だけでは捉えきれない、心の中にそっと生まれる<温度>を大切にしながら、これからも地域の可能性の<種>を、一緒に見つけていけたらと思います。
もし、今活動に行き詰まりを感じている中間支援者の方がいらっしゃれば、中間支援をなさりたいのか、地域づくりをされたいのか、ご自身の根っこにある目的を問い直してみて下さい。これから地域づくりを始められる方は、まず地域で生業をされている方や地域の方と対話し、地域に眠る可能性の<種>を見つけ、信頼関係を築きながらそれを一緒に育んでいくことから始めてはいかがでしょうか。
自分の経験が中間支援の方々にとって、住民の「やってみたい」に寄り添う地域づくりを実践するきっかけになることを願っています。

-
2025年12月24日
年末年始休館のお知らせ -
2025年12月23日
小さな成功体験が、住民主体の鍵に!『一般社団法人みんなとふるさと』伊川さんの「やってみたい」に寄り添う地域づくり -
2025年10月02日
在所のぬくもりを未来へ 花脊文化講が紡ぐ持続可能な地域の物語 -
2025年08月19日
泉北のまちがもっと面白くなる理由!『公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団』宝楽さんの熱い話! -
2025年03月31日
京丹後市未来チャレンジ交流センター活動インタビュー動画公開のお知らせ
正式名称は「環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律」(平成23年6月改正)。環境行政への民間団体の参加と、多様な主体による協働を推進するための規定が多く盛り込まれている。
国民、民間団体等、国又は地方公共団体がそれぞれ適切に役割分担しつつ、対等の立場において相互に協力して行う環境保全活動、環境保全の意欲の増進、環境教育その他の環境の保全に関する取組。
持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)。一人ひとりが、世界の人々や将来世代、また環境と関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革するための教育。
各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方。








