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森と人をつなぐ橋を架け続ける――大和森林管理協会が挑む、森と人が共生する社会

更新日:2026年02月13日

奈良県北西部、都市近郊に残された豊かな緑が広がる「陽楽(ようらく)の森」。ここを拠点に、既存の林業という枠組みを超え、山や森が抱える課題に対して独自のアプローチで解決しようと取り組んでいるのが、一般社団法人大和森林管理協会です。

今回お話を伺ったのは、代表理事の谷茂則さんと、アドバイザーを務める谷晴子さん。
同協会が陽楽の森で進める取組と、森と人が共生する社会の実現に向けた今後の展望を伺いました。

“陽楽の森プロジェクト”の原点

14代続く林業を営む家系に生まれた茂則さんは、奈良県南部の吉野地域を中心に、30年以上にわたり林業に携わってきました。しかし、木材価格の低迷や山林管理者の不在など、従来のやり方だけでは社会の変化に対応しきれず、既存の産業構造における林業に行き詰まりを感じていたと言います。

そんな現状を打破しようと茂則さんが着手したのは、価値が失われつつあった生家の所有する都市近郊林の整備でした。自らの手で道を作り、間伐を繰り返して、薄暗かった森がだんだんと明るく、人が入れる環境が整っていきました。その場所こそが、「陽楽の森」です。

光が射し込むようになった森の心地よさに触れたとき、茂則さんは、「森に人が集まれば、森が喜ぶ」と気づいたと言います。これがきっかけとなり、陽楽の森を拠点とした、森と人をつなぐ「森林に人が集まる仕組みづくり」が始まったのです。

福祉や教育、ビジネスが交差する森へ

2014年、陽楽の森を舞台に、上牧町のカフェ兼写真教室「ナナツモリ」との共催で、「休日うら山フェスティバル チャイムの鳴る森」を開催しました。このイベントには、2日間で約5,000人もの人々が来場し、茂則さん自身も「予想外だった」と振り返るほど、たくさんの人が森に足を運びました。

これを機に、お二人は、より多くの人に森をフィールドとして活用してもらえるよう、新たなパートナー探しを始めます。その結果、障害者福祉サービス事業者(NPO法人なないろサーカス団(王寺町))や福祉/教育事業者(株式会社どすこい(大阪市))が参画し、現在も続く「森×福祉」の分野を超えた、日常的な森の活用が始まりました。

「普段、森と関わりのない人と森林の接点をいかにつくるか。その人や企業の『やりたいこと』を軸に、間接的に森に関わってもらえるよう、細いきっかけを手繰りながら、可能性を開いていくような感覚なんです」

そう語る茂則さんの言葉には、現場での実体験に裏打ちされた深い説得力が宿っています。現在では、セブン-イレブン記念財団やならコープといった企業等との連携も深まり、企業による社員教育やESGの取組といった、多様な主体と連携した自然体験イベントが行われる森となっています。

地域を俯瞰し、ネットワークを広げながら「陽楽の森」に落とし込む

これまでの取組を通じ、お二人は自らの「場」を持つ重要性を感じていると言います。「自らの活動拠点を持ち、そこで『やりたいこと』や『やるべきこと』を表現し続ける。そうすることで、芋づる式に新たな縁やプロジェクトの声がかかるようになっていった」と茂則さんは語ります。

また、中間支援という役割においては、特定の専門領域に取り組むことで視野が狭くなることを避け、常に地域全体を俯瞰することを意識してきました。「人と人」、「人と場所」をつなぎながら、森と社会の間に様々な接点を創り出す、その視点こそが、地域の課題解決の芯を捉える鍵となります。

陽楽の森は、こうして育まれたネットワークが熟成し、特定の目的に縛られることなく、多様な主体が自然に混ざり合うプラットフォームとして、現在進行形でその理想の姿を形にし続けています。

森と人がつながるプラットフォーム戦略――2026年から新たなフェーズへ

お二人が今、最も情熱を注いでいるのは、陽楽の森という「奥大和の林業」と「都市部」をつなぐ大きなプラットフォームを、目に見える形へと進化させることです。

現在、プラットフォームの拠点として、環境省の補助を受けたZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)仕様のカフェ棟の建設が進んでいます。使用されるすべての木材が、奧大和の森から切り出されたものであり、茂則さんが森に入って、材となる木を1本ずつ選定されたといいます。

この施設は、奥大和の森と都市の暮らしが混じり合い、森と人が再びつながるための仕組みを具現化した、「森のシンボル」です。構想から10年、多様な人が日常的に集う拠点が、いよいよ動き出そうとしています。

さらにお二人は、中小企業庁の「ゼブラ企業創出・育成」に係る実証事業*を活用し、地域課題を解決しながら経済を回す仕組みづくりにも着手しています。陽楽の森とその周縁で「100の起業」を誘発するエコシステムの構築を目指しており、すでにいくつかの新しい事業が動き始めています。

*令和7年度「ゼブラ企業創出・育成のためのエコシステム定着に向けた支援・分析(インパクト評価を用いた連携・支援実証調査)」に係る実証地域 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2025/20250724.html

 ※カフェ棟の完成イメージ図
 ※建設中のカフェ棟の見学の様子

最後に――お二人からのメッセージ

インタビューの最後に、地域で中間支援や課題解決に携わる読者の皆さまへ、お二人から力強いエールをいただきました。

「大切なのは、地域に軸を持ち、とにかく人に会ってネットワークを広げること。可能性があると思う『人と人』、そして『人と場所』をつなぐ労力を惜しまないでください。多様な人が集まればハレーションが起こることもありますが、それを恐れず、長期的な融和を見据えて、必要な人材や資源を見つけて巻き込んでいくためのネットワークをつくることが重要です」と茂則さん。

そして晴子さんは、「私自身も本当に難しいと感じていますが、自分だけで抱え込まず、他者に助けてもらうこと。それがネットワーク全体にも浸透していくことで、うまくいくことがきっとたくさんあるはずです」と話してくださいました。

あとがき

お二人のお話からは、この記事では収まりきらないほどの壮大なビジョンと、それを夢物語にせず、戦略的に、そして泥臭く具現化していく力強さが伝わってきました。奈良県全域で地域課題や事業展開を捉える広い視野を持ちながら、奥大和と陽楽の森に深く根を張り、地道に活動し続ける「プレイヤー兼中間支援」としてのあり方は、これからの地域の課題解決において不可欠な要素のように感じます。
陽楽の森にはもうすぐ、お二人の構想が形となった新たなシンボルが誕生します。この記事を読み終えた方が、いつか建設中のあの施設を訪れ、木の香りと新しい森の可能性を感じてくれることを、心から願っています。

環境教育等促進法

正式名称は「環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律」(平成23年6月改正)。環境行政への民間団体の参加と、多様な主体による協働を推進するための規定が多く盛り込まれている。

協働取組

国民、民間団体等、国又は地方公共団体がそれぞれ適切に役割分担しつつ、対等の立場において相互に協力して行う環境保全活動、環境保全の意欲の増進、環境教育その他の環境の保全に関する取組。

ESD

持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)。一人ひとりが、世界の人々や将来世代、また環境と関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革するための教育。

地域循環共生圏

各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方。

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