インフォメーション
泉北のまちがもっと面白くなる理由!『公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団』宝楽さんの熱い話!
更新日:2025年08月19日
泉北ニュータウンでユニークな活動を展開されている『公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団』(https://semboku-fund.org/)(以下、財団という。)の代表理事である宝楽 陸寛(ほうらく みちひろ)さんは、地域のさまざまな課題解決に向けて、財政面のサポートを主としたコーディネート機能を発揮されています。特に、地域内でお金を回すための具体的な手法や工夫、地域資源を活用した持続可能な仕組みづくり、地域経済の循環に寄与する実践的な取組は、地域を『もっと面白く』するためのヒントで溢れていました。そんな財団の取組について、お話を伺いました。
宝楽さんは、公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団という市民コミュニティ財団を運営するだけでなく、NPO法人SEIN(さいん)コミュニティLAB所長として団地のコミュニティ支援などまちづくりの活動を支援するほか、団地の自治会長も務めています。

ヒト・モノ・コトが出会う広場のような場所である財団の活動拠点は、『泉北ラボ』と名付けられています。相談を受ける場所として事務所が欲しいと考えていたところ、大阪健康福祉短期大学から教育・福祉・防災などの地域機能を持った拠点の整備について声掛けがあり“ややうっかり”引き受けてしまったと宝楽さんは笑います。





1.『市民コミュニティ財団』って、どんな財団?
宝楽さんは、地域の人たちから集めた寄付をもとに、市民自身が『どんな地域にしていきたいか』という視点で助成先を選び、応援する仕組みを『市民コミュニティ財団』と呼んでいます。
なぜ“市民”とつけるのか?それは、「まちのみんなが参加したり、一緒に何かを創り出したりできる”器(うつわ)”を増やしていきたい」という思いがあるからだそうです。ただお金を渡すだけではなく、地域の未来に主体的に関わる人を増やしていく土台づくり。まさに、市民がまちづくりの担い手になるための仕組みと言えます。
「一口500円、3,000円といった小さなお金でも、みんなで持ち寄れば、地域を動かす大きな力になるんです」と宝楽さんは語ります。財団では、地域の住民や企業などが気軽に寄付できる仕組みを作っており、集まったお金は、市民公募で集まった地域活動に対して助成されます。
助成先は、地域の課題解決に取り組む団体やプロジェクト。どこにどれだけ助成するかは、市民が審査に関わる仕組みになっていて、財団が一方的に決めるのではなく、住民自身がまちの未来を考えるプロセスが大切にされています。
さらに、寄付をした人には、活動報告書や成果の発信を通じて『自分のお金が何に使われたのか』が伝えられます。「寄付したお金がどう使われたかを知ることで、地域に興味を持つきっかけにもなるんですよ」と宝楽さん。寄付は単なる支援にとどまらず、市民が地域とつながり、関わる第一歩となっています。
財団は『コミュニティ基金』(https://communityinvestment.jp/)という独自のクラウドファンディングプラットフォームを持っており、地域課題の解決に取り組む団体は、このプラットフォームを使って寄付を集めることができるそうです。おもしろいことに、高額の寄付はプラットフォームからではなく、自分で調べて直接ご相談してくださる方が圧倒的に多いんだとか。「ホームページやSNSを見て、自分たちが応援したいと思える団体かどうかを調べたうえで、財団に直接連絡をくださいます」と宝楽さん。そうした方々は、地域や社会の課題に対して強い関心を持ち、『自分のお金を、きちんと届く形で使ってほしい』という想いを抱えておられるそうです。
寄付は金額の大小にかかわらず、その背景にある“地域への思い”が原動力になっている。そんな実感が、宝楽さんの語り口から伝わってきます。
2.お金だけじゃない!『参加と協働の器』の理念

宝楽さん自身は自らを「NPOバカ」と称しています。高校生の頃からボランティアにのめり込み、NPOの理念である『参加と協働の器』を大切にしてきたそうです。
宝楽さんは、「お金だけではなく、人の思いや行動も地域を動かす力になる」と言います。財団は、市民からの寄付を受け付けるだけでなく、市民による地域課題解決のアイデアを受け止めたり、市民が財団の運営に参加したりできる“参加と協働の器”として設計されています。誰もが自分の得意なかたちで地域に関われる、開かれた仕組みこそが、この財団の理念です。
「本当は、お金を集めるのが目的じゃないんです。行政やNPOだけでは解決できない『こぼれ落ちている隙間』が地域にはあって、その隙間をどう埋めるかをみんなで一緒に考える。その過程でお金の話が出てくるのが本来の流れだと思っています。だから、寄付はあくまで参加ツールの一つにすぎない」と考えているとのこと。
3.コロナ禍をチャンスに!常識破りの活動
コロナ禍で学校が一斉休校になった2020年2月、宝楽さんはまさにそのときに財団を設立登記しました。宝楽さんのもう一つの活動現場である、中間支援組織NPO法人SEINが運営していた泉北ニュータウン内の茶山台団地にある地域の居場所『茶山台としょかん』も一時閉館になり、子どもたちの居場所がなくなりました。その時に、『地域にできることをやらねば』と宝楽さんは動き出します。
茶山台としょかんは、本を読むだけでなく、地域の人がふらっと立ち寄り、顔を合わせ、ゆるやかにつながる“地域の居場所”として親しまれていました。単なる図書館ではなく、世代や立場を超えて人が集まる、対話と交流のハブとなっていた場所です。
「僕らはクラスターを作ることに命をかけてきたのに、それを否定してどうするんだと。当時、密を避けるということだけが報道されており、新型コロナに感染するリスクなども見通しがありませんでした。そのためリスクがあるかもしれないけど、子どもたちや皆の居場所を作りたいという思いから、いろんな地域の仲間に声を掛け、手伝いたいという方だけに来てもらった」と、閉館された茶山台としょかんに濁点をつけて『ぢゃやまだいどじょがん』とパロディ化して、開館してしまったというワイルドなエピソードも!


「平時からつながりがなくてしんどい思いをしている人たちを見てきたからこそ、非常時に何もしないわけにはいかない」宝楽さんはそう語ります。コロナ禍は、外出や対面の交流が制限され、孤立や不安を抱える人たちが一層見えにくくなりました。そうした状況を目の当たりにしたからこそ、地域の中にあらかじめ“ゆるやかなつながり”があることの重要性を実感したと言います。
振り返れば、コロナ禍は地域自治にとって大きな分岐点だったと宝楽さんは言います。制約がある中、工夫を重ねながら財団としての活動を続ける中で、茶山台団地では若い世代が前向きに関わる姿が見られるようになりました。「(地域の)30~40代が笑いながら、楽しく結束できたチャンスでもあった」と語る背景には、非常時こそ誰かのために動く力や、地域に新たな担い手が生まれる可能性を信じる想いが込められています。
それらの活動の中でも象徴的なのが財団主催の『コミュニティフリッジ(https://semboku-fund.org/communityfridge/)』と、NPO法人SEINが中心で行い、財団がコーディネーションしている『おかずボックス(https://semboku-fund.org/1510-2/)』の取組です。
コミュニティフリッジは、地域の企業や、個人から提供された食料品や日用品を、必要としている人が無料で受け取れる地域の共有冷蔵庫のような仕組みです。誰でも気軽に立ち寄れるよう、場所や時間に工夫がされており、支援を受けることに対する心理的ハードルを下げています。
一方、おかずボックスは、困りごとを抱える家庭にボランティアがお弁当を直接届ける活動で、ただ食事を届けるだけでなく、見守りや対話の機会も生まれています。今では子育て中の親の悩みや困りごとを自然に受け止める“入口”のような役割も果たしています。
こうした取組の背後には、財団の『コーディネート機能』があります。活動の主体は市民やNPOですが、財団が地域の企業や専門職、行政などとの間に立ち、資金・物資・人材などをつなぐことで、活動が継続的かつ広がりを持って展開できるよう支えています。まさに、“参加と協働の器”として、地域全体が支え合える土台を整える役割を果たしています。
4.まちびらき50周年が転機に!『つながる』力の秘密
泉北ニュータウンのまちびらき50周年を迎えた2017年12月が、宝楽さんの活動の大きなきっかけとなりました。当時、宝楽さんはNPO法人SEINとして財団が実施するまちびらき50周年記念事業の事務局を担っていたのですが、実は記念事業を実施するまで、南海電鉄株式会社などの企業、堺市役所を始めとする行政、独立行政法人都市再生機構、大阪府住宅供給公社、そして市民団体がそれぞれまちを良くしようと頑張っているにもかかわらず、互いの『つながり』が希薄だったといいます。
そこで宝楽さんは、記念事業に参画している企業や行政、各団体がまちで開催するイベントに“50周年”の冠をつけ、記念事業に合わせて公募した市民ライターを巻き込みフリーペーパーやウェブページにまとめて発信。まちのプレイヤーたちを『勝手にひとつにした』のです。企業も行政も各団体も『良いまちにしたい』という同じ方向を向いていた時期だったため、つながりやすかったそうです。
宝楽さんが重視するのは、『ハブ人材』の存在。ハブ人材が地域にいた方がいいのは、まるでインターネットの検索サイトの役割を果たすからだそうです。Googleで検索ができるようになったのも、検索サイトという“ハブ“ができたから。行政や企業、各団体の中に、そうしたハブとなる人が複数いたことが、泉北の強みだと宝楽さんは分析します。
「僕、アイデアマンじゃないんです。困っている人や、この人たちをモデルに何か事業をしないといけないな、と思う対象が必ずいて、そこからアイデアが生まれている」と謙遜しますが、『人から教えてもらう』姿勢こそが、新しい事業を生み出す源泉なのかもしれません。
5.宝楽さんの描く未来図!『コモンズ基金』って?
宝楽さんは、泉北の未来を見据え、さらなる構想を練っており『これからの地域のかたち』をいくつか教えてくれました。
1つ目は、移動困難地域での『グリーンスローモビリティ』の導入です。
泉北ニュータウンは起伏の多い丘陵地に位置し、まちびらきから半世紀以上経過して高齢化が進んでいます。高低差や階段が多く、駅から離れた場所では道路が入り組んでいるため公共交通の便が限られ、車を持たないと生活しづらい環境です。特に高齢者にとっては移動が大きな負担となっており、地域住民アンケートでも『移動の困難』が主要な課題として浮かび上がっています。その課題に対応するため、グリーンスローモビリティの導入を進めています。歩道と車道が分かれている泉北ニュータウンの特性を活かし、買い物や通院といった日常生活の移動時に、階段や坂道が多い場所で住民が気軽に利用できるような、ゆっくり走る車両による“移動支援”を目指しています。この取組は行政からの発信ではなく、財団が独自に始めました。現在は月曜日の11時から12時台に運行されており、七棟集会所を拠点として地域内を周回しています。

2つ目は、財団が電力インフラを所有する『オフグリッド化』の構想です。
財団が電力インフラを所有するオフグリッド化の構想は、財団の安定した運営と災害時の電力供給という2つの大きな目的を持っています。宝楽さんは、毎年寄付を集め続けるフロー型の財団運営が大変だと感じていたそうで、売電による月々の安定収入を得ることで、事務局がより効率的に運営できるのでは?と思いついたそうです。
3つ目は、『ネイチャーポジティブ』なエリアづくりです。
泉ヶ丘駅前にある里山の形を残した森を活用し、豊かなエリアづくりを目指すネイチャーポジティブなアプローチも進められています。森の中にあるため池は、かつて農業用水に利用されていたそうですが、今ではほとんど使われず水が溜まっている状態だとか。そんなため池や、周囲にある森の中の生き物を調べ、その価値を見える化していくことで、“自然を守る”から、“自然と共にまちをつくる”へ踏み出していきたいと宝楽さんは言います。
4つ目は、最大の構想である『コモンズ基金』です。
『コモンズ基金』は、宝楽さんが財団の未来を見据えた最も大きな構想です。財団はこれまで主に、毎年寄付を集め、それを地域活動に分配するフロー型の寄付モデルを推進していました。そこからさらに発展した、“ストック型”の寄付モデルとしてコモンズ基金の創設を目指すと宝楽さんは言います。
コモンズ基金の基盤となるのは、2026年4月から施行される改正『公益信託』制度です。今までの公益信託制度は、信託できるのは金銭のみとなっており、信託機関も限られていましたが、この法改正により、金銭だけでなく不動産など幅広い財産を信託財産とすることができるほか、信託会社だけでなく個人や法人も受託者になれるようになるそうです。
この法改正を活用することで、財団が不動産などのストック資産を直接保有できるようになると宝楽さんは考えています。不動産を保有し、そこから得る家賃収入などを通じて、安定的に地域の課題解決を支える新たな財源を確保することを目指しているそうです。
コモンズ基金の構想は、財団のこれまでの活動の積み上げと連続性があって初めて実現できると宝楽さんは言います。
こういった構想は、『暮らし』を起点とする宝楽さんのユニークな発想と実行力に基づいています。
※公益信託とは…社会のために使ってほしい財産を、信頼できる機関に預けて、代わりに運用・管理してもらう仕組みです。お金を渡すだけの仕組みではなく、不動産や土地といったストック資産も活用できるのが、法改正の大きなポイントです。
6.中間支援団体への熱いメッセージ
宝楽さんから、地域で活動する中間支援団体や、地域で共創したい人々へのメッセージもいただきました。
かつて行政からの指定管理でカウンター越しに相談を受けていた頃と違い、今は地域に出て“横に座って話せる関係”を築いているという宝楽さん。中間支援団体こそもっと現場に出るべきだと強調します。 なぜなら、中間支援組織にはたくさんの情報やヒト、モノが集まりますが、地域にはたくさんの可能性にあふれる社会資源がたくさんあるからだそうです。
「資金支援は、あくまで手段の一つにすぎない。大切なのは、地域課題の掘り起こし方、それを“問い”に変換し、解決策を地域の人々と一緒に考えることだ」と言います。厚生労働省が推進する重層的支援体制整備事業(目的:断らない相談窓口を軸とした包括的支援体制の構築)のように、行政の制度を地域で使いこなすためにも、現場に出て人々の暮らしを『重層的』に見ることが重要だと訴えています。
宝楽さんの話は、地域で稼ぐこととつながることを両立させながら、人々の“暮らし”を豊かにしていく、その熱い情熱とユニークな視点に満ちていました。まさにおもしろそうという直感と、それを形にする実行力こそが、泉北のまちづくりの原動力だと感じました。

7.感想
宝楽さんが実践されている活動は、まさに“すごい”と敬服せざるを得ない独創性と実行力に満ちています。
宝楽さんの情熱や、地域で実際に生まれている“参加と協働の器”としての多様な活動が地域の活性化につながっています。特に、従来の行政やNPOだけでは解決できない『こぼれ落ちている隙間』を、住民との対話の中から見つけ出し、具体的な事業へと変換していく宝楽さんのアプローチは、取材をしながら何度も言葉を失いました。
これらの活動が、泉北ニュータウンのまちびらき50周年をきっかけに『出会う、つながる、歩み出す』というコンセプトで始まり、宝楽さんをはじめとした複数のハブ人材が行政や企業、各団体をつないできました。
『暮らし』を起点とした新しい仕事づくり、ネイチャーポジティブなエリアづくりといった未来への展望など、宝楽さんのビジョンと実践は、多くの地域にとっても参考になる取組だと実感しました。

-
2025年10月02日
在所のぬくもりを未来へ 花脊文化講が紡ぐ持続可能な地域の物語 -
2025年08月19日
泉北のまちがもっと面白くなる理由!『公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団』宝楽さんの熱い話! -
2025年03月31日
京丹後市未来チャレンジ交流センター活動インタビュー動画公開のお知らせ -
2025年03月31日
きんき環境館パンフレット改定のお知らせ -
2025年03月30日
滋賀県地球温暖化防止活動推進センター活動インタビュー動画公開のお知らせ
正式名称は「環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律」(平成23年6月改正)。環境行政への民間団体の参加と、多様な主体による協働を推進するための規定が多く盛り込まれている。
国民、民間団体等、国又は地方公共団体がそれぞれ適切に役割分担しつつ、対等の立場において相互に協力して行う環境保全活動、環境保全の意欲の増進、環境教育その他の環境の保全に関する取組。
持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)。一人ひとりが、世界の人々や将来世代、また環境と関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革するための教育。
各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方。








